うちには、電話一本で繋がっている馴染みのお店がある。
珈琲党の我が家のささやかな贅沢として、コーヒー豆は専門店で焙煎して送ってもらっている。以前すんでいた街にあった小さな店なのだが、地方にも発送してくれるというので、あちこち転勤してもそのままお世話になっている。
注文の電話をしている様子を見た人はみんな驚く。
私「こんにちは。○○です。いつものお願いします。」
これだけだ。
相手の店主も
「あっ、はいどうも。わかりました。送ります。」
これでおしまい。
双方でやり取りして、ほぼ10秒足らず。聞いていた人は「今の、なに?」と不思議な顔をする。
最初から、こんな電話だったわけではない。だが、回数を重ねるうち、送り先は必要なくなり、注文の品も定番となり、店主はお一人でお店を切り盛りしているので、余計なおしゃべりは迷惑になるという配慮から、必要最低限のセリフだけが残った。
相手もその辺のところを感じ取ってくれて、この短いやり取りをそのまま「定番」にしてくれている。
定番がもうひとつ。
あの短い電話は、双方とも機嫌のいいやり取りにすることが、暗黙の了解になっている。私は明るい元気な声で電話をし、店主もその笑顔が想像できるような声で返事をくれる。だから電話を切ったあと、なんだか自然と楽しい気持ちが溢れる。
翌日には間違いなく、煎りたてひきたてのコーヒー豆が届く。そして、私は感謝の気持ちを込めて、必ずその日のうちに料金を振り込む。
たったこれだけなのだが、私はこのお店とは、いい信頼関係があると自負している。