ひと月ほど前、野球のグランドから雪が消えた頃、農家を営んでいる方にそろそろ忙しくなるのか、と何気なく聞いたところ、表面の雪は消えても土の中はまだ凍っていて、作物の種をまいたりするのはまだ先のことなのだと教えてくれた。
そして、農業のことなどなにも知らない私に、種をまくタイミングが少しずれてしまうだけで、収穫に大きな差が生まれてしまうことを丁寧に教えてくれた。
それは、まるで授業を聞いているようだった。「なるほど。」と納得できることなのだが、普段意識していないで生活している私には、教えられなければ考えが至らない「新しい知識」だった。
それでは、いつになったら種をまけるのかと聞くと
「土から湯気が上がったら」
と教えてくれた。
「土から湯気が上がる」…そんな風景を、これまで見たような気もするし、見ていないような気もするし…。少なくともその風景を「種まきのタイミングの合図」と受け止めたことはなかったのは確かだ。
それからというもの、その風景がいつやって来るのかと心待ちにしていた。
…そう言いながらも、その意識が薄れかけていたころ
その風景に遭遇した。
神々しいものを見たような、神聖な気持ちになった。
「土から湯気が上がる頃」
今まで知らなかった季節に出会えた。