ごはんとみそしるの日記

日々のあれこれ

小芝居の記憶

 私よりひとつ年下のいとことその両親の記憶である。小さい頃いとこが我が家に遊びに来たときには、両親が迎えに来ると帰りたくないと駄々をこね、そこから定番の小芝居が始まるのが常だった。それは、その子が両親に目をつむらせて後ろを向かせ、そこへおもちゃのトンカチを持ち出して二人のお尻を叩いて懲らしめ、二人は大げさに「いたたたっ❗」と痛がって、いとこは両親のその様子に大笑いする、というものだ。それはお決まりの内容で、しかもそれが何度も繰り返されるので、なにをされるかはみえみえなのに、二人は全力で不意打ち攻撃を受ける演技を繰り返していた。

 いとこのお父さん(私の叔父)はお医者様で、普段は穏やかな紳士、お母さん(私の叔母)はいつもおしゃれで上品な人だ。そんな二人が、その時ばかりは愛娘にされるがまま、望まれるがままになって、しかもひと目も憚らずただひたすらに娘を喜ばせようとしている。我が家ではあり得ない風景だ。

 その時のいとこの行動から考えて、かなり幼い頃だったはずで、私も同様に幼かったはずなのに、その光景はずっと消えず、「叔父さんと叔母さんにとって、いとこはこんなにも愛しい存在なんだ。」ということをストレートに感じた。そして、大人になっても、叔父と叔母のその思いは、ことあるごとにこちらに伝わってきて、その都度幼い頃の小芝居が思い出されたのだった。


 ずいぶん前に叔父が亡くなり、そして2日前に長く患っていた叔母が亡くなったと連絡が入った。いとこにお悔やみの電話をして、幼い頃のその小芝居の話を伝え、「二人にとって、目に入れても痛くない存在なんだなぁと思ってたよ。」と話した。

 すると彼女は「私もそれは感じていたよ。」と答えてくれた。

 その言葉に胸が一杯になった。私がずっと覚えていたあの小芝居のフィナーレはここだったのか、と妙に納得し、二人に精一杯の拍手を送りたくなった。