ごはんとみそしるの日記

日々のあれこれ

「安楽死」

 義父の一周忌のため、実家を一泊二日で訪れた。コロナ禍のため、身内だけのささやかな法要だったが、久しぶりに子ども達が揃い、義父の思い出話に花が咲いた。

 義父は、幸い長患いはしなかったものの、病気が進み、身体が弱っていった頃、自慢だった健脚も思うように動かなくなり、歩きながら、苛立たしげに「ちくしょうちくしょう」と自分の足を叩いていた、という話には、義父の気持ちが慮られ、胸がつまった。

 さらに、最後を看取った義姉が話してくれた。

 いよいよ死期が迫った頃、義父はその状況が耐えられなかったのか、看護士や義姉のいる前で主治医に向かって、自分を安楽死させてくれ、と頼んだ。

「先生!俺を安楽死させてくれ!」

義父はきっと苛立っていたのだと思う。周囲はなんとか落ち着かせようと声をかけるが、義父は繰り返す。

「先生!頼むわ!俺をあれしてくれ!」「あれだ、あれ!」

興奮して話しているうちに、「安楽死」というフレーズがとんでしまったのか、「あれ」をもどかしそうに何度も繰り返す義父。周囲は、義父が言いたいのは「安楽死」だとわかってはいるが、それを口に出すこともできず、義父の「あれ」をどうやり過ごしたらいいのか困っている。

「真剣な場面なのに、なんだかどんどん可笑しくなっちゃって。先生も看護士さんも私も必死に笑いをこらえてた。」

 それを聞いた私たちもその場を想像して不謹慎にも大笑いした。

 そして、大好きな義父らしいこのエピソードに、今度は胸が熱くなった。

 生きていくことも死ぬことも真面目で、一生懸命なことにはなぜか滑稽さがつきまとう。義父はいつも、そんな人だった。

 義父は、最後まで真剣に生き切ったんだなぁと、あらためて誇らしく感じたのだった。