ごはんとみそしるの日記

日々のあれこれ

エプロン

 先日父との思い出を思い出したら、ずっと心に刻まれている母との思い出も再び意識することが多くなった。

 多分、私がまだ四、五才の時である。なんだったか外でイヤなことがあった私は、台所で洗い物をする母のところに行った。「どうしたの?」と聞かれ、感情が溢れて母にしがみついて泣いた。母のエプロンに顔を埋めるように激しく泣き、母は特に何も言わずにただ背中をトントンとしてくれていたように思う。

 その風景は、ずっと自分の中に残っていた。特に意味づけをすることもなく、そのまま箱の中に入れっぱなしだった。今、あらためて手にとって、これはなんなのか、と思い返してみた。

 あの時のエプロンが、頬にとても心地よくて、大声で泣きながらも「気持ちがいいなぁ」と感じていたこと。イヤなことも全部あのエプロンが吸いとってくれたように思ったこと。私にとってのあの頃の母は、あのエプロンそのものだったのかなとあらためて思った。

 母と接するときに、いつからか上から目線で偉そうになっていた自分は、大切なエプロンをもはやなくしてしまったのかもしれない。でも、ずっとそのぬくもりを忘れられずにいるのは、あのエプロンに守られていた幸福感を誇りに思い、支えにしていたからではないか。

 こんないい宝物を持っていたんだ、私、と思った。
(2017 10 8)