ごはんとみそしるの日記

日々のあれこれ

父の手仕事

 父は、会社員の仕事を退職した後、指先の運動に、と広告チラシを折って紙箱を作るのを日課にするようになった。簡単なように感じるその作業は、父らしい丁寧さとこだわりが加わり、徐々に職人のような手さばきになっていった。しかも、これも父らしいのだが、折り始める前のチラシの重ね方からして工夫が施され、実際に折り始める前にたっぷり時間をかけるのが常だった。これだけ時間と手間をかけた作品は、見映えよく束ねられ、気前よく周囲の人に配られた。私も定期的にもらってきては、生ごみを捨てたりお菓子の包み紙の処理などに使っていた。

 昨秋、父が家に遊びに来たとき、私は父に「これはとてもいい仕事だよね。だって、もしお父さんがこの世にいなくなっても、しばらくはお父さんを感じることができるものね。」と言った。ブラックジョークのつもりだったが、父はまんざらでもない嬉しそうな様子で「そうか。」と答えた。

 今、作り手がいなくなってしまった父の紙箱を、これまでと同じように毎日使っている。手にする度に、父のことを思い、父の存在を確認することができる。あちこちに配られた父の作品は、今も父にゆかりのある人たちが使ってくれているだろう。

「お父さん、これは本当にいい仕事だったね。」と写真の父に話しかけたら、父は「そうか。」と笑っているようだった。