ごはんとみそしるの日記

日々のあれこれ

ぬくもり

 小樽に住む父が亡くなったと連絡が入り、実家に駆けつけた。その日の朝に本人から電話をもらって明るく話したばかりで、全くピンとこない。しかし、家に着くと父の顔には白い布が被せられ、枕元にはろうそくと線香がおかれていた。
 その違和感を振り払うように、私は父の顔を触った。まだ息をしていた時のぬくもりを探したかった。いつもの父と違うことに気がつかないふりをして、私は父に話しかけた。その後も私は、繰り返し父の顔や髪を撫で続けた。今のうちに父にたくさん触れておきたかった。時間がたつ度に冷たさが増していく父の頬。「行かないでよ。」という思いが溢れてくるのを、「ありがとね。」と「大好きだよ」という言葉に変換して何度も父に伝えた。
 時間は刻々と過ぎていき、最期のお別れの時が来た。その時も私はまた、父の冷たい頬に触れた。すっかり変わってしまったぬくもり。父が離れていってしまったという現実が、たまらなく寂しかった。
 荼毘に付した父の骨は、骨箱に納められ、私は両腕でそれを受け取り抱き締めた。それはまだ温かくて、そのぬくもりが、骨箱を抱いた私をすっぽり包み込んだ。その温かさは父そのもののようで、たった今お別れしたばかりなのに、私はその時「ああ、父が帰ってきた。」と感じた。これがいつもの優しい父だと。これからもずっと父は私の中にいてくれる。そんな安心感でいっぱいになったのだった。