ごはんとみそしるの日記

日々のあれこれ

この空間の居心地は自分が守るという誇り

 ご主人が退職後、ご夫婦で経営されているという小さなカフェを訪れた。ご主人は最近ご病気をされたようで、からだの自由がきかないようだ。それでも作業の大半を奥さまがこなし、これまでと同様の経営を続けている。料理の提供などは以前よりも時間がかかってしまうが、元来からのお馴染みさんはそれ以上の価値をこの場所に感じているようで、小さな店はその日も一杯だった。

 そんな中、ご主人がふと店内をある方向に向かって進んでいった。…その動きからは、今の身体ではこれが精一杯、というのがひしひしと伝わってくる。引きずる足をほんの少し前に進めて渾身の二歩。そこで呼吸を整えるように間をあけ、また次の二歩。にじり寄るように進む先には、暖房器具がある。きっと店内の少し高めの気温をおさえようというのだろう。

 奥さまがその様子を目に納めたが、穏やかな表情で見守りつつ、そのままにこやかに別の作業を続けてた。奥さまが代わればあっという間に終わってしまうであろうその行為を、ご主人は全身全霊をかけるようにして最後までやり遂げた。

 店の他のお客様も、その行為を尊い思いで見守り、誰も手を貸さなかった。「この空間の居心地は自分が守る」という誇りがご主人から伝わり、みんなとても豊かな気持ちになったのだった。