ごはんとみそしるの日記

日々のあれこれ

靴べら代わり

 両親が、道南の我が家にやって来るのは本当に久しぶりだ。この度二人のダイヤモンド婚式のお祝いのため、姉夫婦が二人を連れてきてくれた。そして、お祝いの宴の後、数日二人は我が家に滞在していくことになった。

 二人が我が家に来たのは10年以上前のことで、その頃主人は単身赴任しており、私はまだ下の子を保育園に預けて働いていた。我が家に二人が来るときには、ご飯支度と子守りを任せ、私はつかの間のんびりできる時間をもらえたのだった。

 その後、私は仕事をやめ主人の転勤について回るようになり、長い間家を空けることになった。また父が病気をしたこと、そしてコロナ禍と色々あって、我が家に来てもらうことができず、今回は本当に久しぶりに二人を迎えることができたのだった。

 昔と違い、子どもたちが手がかからなくなった分、両親は年を重ね、我が家を訪れるのはこれが最後などと言っているらしい。それだけに、恩返しの気持ちも込めて二人に楽しい時間を過ごしてほしかった。

 寝起きがしやすいように、と息子のベットを客間に運びいれ、二人が喜びそうな献立を考え、興味がありそうなドライブスポットを探した。主人は、二人が疲れないよう気を配りながら、綿密な計画を作ってくれた。

 気合い十分で二人を迎えたが、いざ外出しようとしたとき、父に「靴べらはあるか?」と尋ねられた。

 しまった💦我が家では誰も使わないので思いつかなかったが、足の弱っている父には必需品だろう。とっさに父の足下にもぐり込み、父のスニーカーのかがと部分に私の人差し指を入れた。

「いいよ」と声をかけると、父はちょっと浮かしていたかがとを下ろし、父の足は私の指を靴べら代わりにしてスルッとスニーカーにおさまった。

 父の小さな安心感が指から伝わってくるようで、思いがけず切なさがこみ上げてきた。

 父も母も、たくさん笑い、たくさんありがとうを言って帰っていった。息子たちには「また来たいな。」と伝えてくれ、彼らはガッツポーズをして喜んだ。息子たちが自分のできる形でやった精一杯のおもてなしを、父も母もひとつ残らず受け止めてくれた。

 二人が無事に帰った今、喜んでもらえた安心感と共に、靴べら代わりをした人差し指に感じたせつなさの余韻が、まだ少し残っている。