ごはんとみそしるの日記

日々のあれこれ

ロマンス

 年末の歌番組で、昭和の懐かしい歌謡曲に遠い思い出が蘇った。

 まだ私が小学生だったころ、父が突然、岩崎宏美の「ロマンス」のシングルレコードを買ってきた。父が聴くレコードといえば「三橋美智也」と決まっていたので、どうしたのかと尋ねると、仕事の宴会で歌うことにしたので、練習するために買ってきたとのこと。そして、姉と私に、自分が歌えるように教えてほしいというのだ。

 会社勤めの父は仕事人間で、毎日朝早くに出かけ、夜遅くに帰ってきた。接待などで飲んで帰ってくることも多かったが、カラオケなどなかった時代である。家でも父が歌うなんて、せいぜい鼻歌程度である。

 それなのに、アイドル歌手の歌を一曲一人で歌うという。そして、私たちにそれを「手伝ってくれ」というのである。私たちは俄然張り切った。

 それから数日間、父に手作りの歌詞カードをもたせ、振り付けもつけて何度もレコードにあわせて歌わせた。歌いなれない父に容赦なく「違う❕」「もう一度❕」とダメ出しする私たちに対し、父は文句も言わず真剣に練習した。お披露目当日の朝は、「落ち着いて頑張ってね」と完全に上から目線で見送った気がする。

 子煩悩だが仕事には厳しかった父。そんな父がくれたミッションに、私と姉は夢中になった。今思えば、大切な仕事にちょっと関わらせてもらったのが誇らしかったのだ、と思う。

それにしても、父はどうして「ロマンス」を歌おうなどと思いついたのか。

 得意先への接待だったか、部下を喜ばせようと思ったか。それとももしかしたら、普段忙しくてかかわれない娘たちとのコミュニケーションだったのか。

 コロナ禍でしばらく会えていない父にこの次会ったら、その事を聞いてみようと思っている。