ごはんとみそしるの日記

日々のあれこれ

藤の「祭り」

 いつも通うスポーツジムの窓の外に、立派な藤の木があり、今、満開のときを迎えている。その素晴らしさをジム仲間で称えあっていると、そのうちのお一人が「でも、私はもうひとつすごい藤の木を知っているの。」とおっしゃる。実は、私の心のなかにももうひとつの藤の風景が浮かんでいたので、興味深くお話を伺っていたら、なんと、それは同じ藤の木だということがわかった。

 そんなにすごい木なら、たくさんの人が知っていて当たり前、と感じるかもしれない。しかし、その木は特別だ。なぜなら、その木からは、人間とのかかわりなど全く感じさせないから。

 それは、いつも通るのどかな道を運転していて、ハッと眼に飛び込んできた。廃墟となった建物の陰に立つ一本の高い木を伝い、藤の枝が天に向かって伸び、その木を藤色に染めているのだ。それはかなり高い位置なので、車でしか通らない場所だけに、フロントガラスからだと視界からはみ出してしまい、意外に眼に止まらない。しかし、その存在に気がついたとき、あまりの衝撃に「やられた」と思った。

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 いつの間にこんな風になったのだろう。この家の住人が家を去り、誰もいなくなった後も、誰にも知られず、誰に媚びることもなく、ただ上を目指して伸びていったのか。そして、空がつかめそうなほど圧倒的な存在となって、もう誰もかなわない。
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「すごい」という言葉しか出てこなかった。これほどまでの偉業も、普段はまるで主張もせず存在すら感じさせないでいる。一年のこの時期のみ、その存在を周囲に知らしめる。でも、それは主張ですらないのかもしれない。これは単に、彼の中の「祭り」なのだ。

この「祭り」に、気がついた同士がいたことが嬉しかった。藤本人(!?)の本意ではないかもしれないが、たくさんの人に知ってもらいたい気になった。それを同士に口にすると「わかる。でも、知られたくないような気もするのよ。」とおっしゃった。そして、その気持ちもとてもよくわかるのだった。

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